オナホ文学とは
「オナホ文学」とはオナホールに込められた世界観をより楽しむために製作された大人の文学です。
小説?ラノベ?芸術?
いえ、オナホです。
熱可塑性エラストマーです。
大人が作りたがる定義なんて原材料と一緒に加熱してしまいましょう。
【今回の対象作品】 被虐のアリューネ~悲恋~ ※後編の「輪廻の物語編」はコチラ |
序章
1758年の冬。
淫スパニア公国はプロイセンやポーランドなどの名だたる大国同士による争いの中にあった。
わずか一万人ほどの人口しかいない淫スパニア公国が、今もなおどの国にも属していないのには理由があった。
それは淫スパニア公国の大公女であるアリューネと呼ばれる年端もいかない少女による信仰にも似た統治のおかげである。
淫スパニア公国の民はこの少女を「奇跡の姫アリューネ様」と讃え、その身も心もたった一人の小さな少女に委ねることで安寧を得ている。
その結束力は他のどんな大国をもしのぎ、数では圧倒的に不利なこの小さな国をいまだ他国の支配下に置くことはない。
それもこれもすべてアリューネ様のおかげであると民たちは信じているのである。
しかし、現実と理想はいつの時代もかけ離れているものである。
今日も今日とて大国からの使者が幾人も淫スパニア公国に訪れていた。それは国の買収のためであったり、内情視察、また他国との密会であったりと様々な理由であったが、真の理由はそんな政治的な画策とは無縁の遥か彼方にあった。
「おひい様、次の方が参られます。ご準備を……」
大公宮の一室。通称――夜伽の間と呼ばれる美しくも怪しげな雰囲気に包まれた小さな部屋に二人の美女が鎮座していた。
一人は二十歳ぐらいの見た目で給仕服に身を包んでいる物静かな女性。名をヴィヴィアンといった。
もう一人はそのヴィヴィアンよりも少し幼く十五、六歳の見た目をしたまだあどけなさを残す金髪の少女であった。
「ヴィヴィアン……わたしはほんとにこれでいいのでしょうか?」
いにしえの時よりこの小さな国をたった一人で守ってきた彼女こそがこの国の姫であり奇跡の女性。
アリューネ――その人である。
「おひい様……それは……」
ヴィヴィアンは突如漏らしたアリューネの弱音にどう答えていいかわからない。
「ごめんなさい。わたしがしっかりしないとこの国はすぐにでも滅びてしまう……」
アリューネはそういうと、ヴィヴィアンを下がらせた。
次にやってきたのは他国の高官である。身分の高さそうなその御仁はアリューネを見るや否やその場に押し倒した。
アリューネは悲鳴を上げることもなくされるがままである。
せっかく着飾ったドレスも乱暴に引きちぎられてアリューネの白く儚い肢体があらわになった。
その肢体に貪りつくかのように高官はアリューネの全身をいやらしく舐め回す。一頻り舐め回したら、今度はアリューネの秘部に自身のはち切れんばかりに勃ち上がったペニスをつきたてた。
「んっ……」
アリューネは少し苦悶の表情を浮かべる。しかしこれが自分にできる仕事。この国を守るためにはこうする以外に道はない。アリューネは自らの身体を捧げることで淫スパニア公国の今の立場を守っているのである。
それを知っているのは先程の侍女ヴィヴィアンと、事実上この国のすべてを裏で動かしている元老院議員筆頭ガイザルだけである。
ガイザルが各国の使者を集め、こうしてアリューネに相手をさせて世界とこの国との均衡を保っていた。
アリューネはそれを承知で今の現状を受け入れている。自らの使命であるかのように。自分さえ我慢すればこの国の民は一生安泰であるからだ。
「おひい様……本日は今の方で最後でございます」
アリューネの体を拭きながらヴィヴィアンが悲しそうにつぶやく。
「あなたにはいつも辛い思いをさせてしまいますね」
そんなヴィヴィアンをも気遣うアリューネ。自分のほうがはるかにつらい立場にありながら他を思うその心は一国の姫そのものである。その気高き精神に惚れ込んだからこそヴィヴィアンはなにがあってもアリューネのそばを離れるつもりはない。たとえこの国が滅びようと、その意思は揺らぐことはないだろう。
「ほう……今日も見事にやりきりましたな姫様」
扉をノックするでもなくずけずけと入り込んできたのは元老院筆頭ガイザルである。
「ガイザル様! 今はまだおひい様が!」
ヴィヴィアンが一糸まとまぬ姿をしているアリューネをかばうように前に出た。
「ふん。今更なにを隠すというのだ。この体でこれまでこの国を守ってきたのであろう。なにを恥じることがある。褒められこそすれ恥じるものではないはずだが、それとも何か。お前はこの私が何か間違ったことを言っているとでもいうのか?」
下卑た笑いを浮かべてガイザルが答える。
「そ、それは……」
ヴィヴィアンはガイザルの正論に何も言い返すことができない。
「もういいでしょう。それでガイザル。あなたはわたしに用があってきたのでしょう?」
見かねたアリューネがガイザルの前に立ち上がる。もちろんその身には何もまとっていない。
ガイザルの目がアリューネのあらゆる場所を値踏みするように動いた。
「姫様。近々おそらく大きな戦争がございます。つきましては我が軍の増強を図りたいかと……」
その後は淡々と会議が行われた。ヴィヴィアンがアリューネを着替えさせて、着替え終わったアリューネを連れてガイザルが城内を歩き回る。近衛兵などを労いつつ、軍部へ向かい今後の作戦方針などをただ黙って聞かされ続けるアリューネ。彼女が発言することはめったにない。というよりはガイザルによって認められていない。下手に下々の者と会話することでこれまでのアリューネがしてきた秘密の逢瀬がバレてしまうのを恐れているからである。
民の前で姫は清廉潔白でいなければならない。それはガイザルもアリューネも考えは同じであった。自分さえ我慢すればこの国の者は皆笑顔でいられるのだから。
アリューネはそう強く心に刻み、今日も城内を静かに歩き回った。
一つの小さな視線を意識しながら――
第一章
アリューネ姫が町の教会で演説をしている。
日々の公務のひとつだ。こうして町の教会をひとつひとつ周り、民たちを安心させている。
町の中とはいえ、どこに他国の使者が潜り込んでいるかわからない。
そんな者たちからアリューネ姫を守るために構成された姫直属の護衛兵の中にまだ年端もいかぬ少年がいた。
名をアビス。
かつてアリューネ姫に命を救われたその少年は、アリューネに恩を返すために自ら兵に志願した。
最初はぎこちなかった剣技もあっという間に会得し、その才能を買われ姫直属の護衛兵に抜擢された有望株である。
「姫様、先程の演説とてもすばらしかったです」
公務を終えたアリューネにアビスが声をかける。
「ありがとうアビス。あなたも疲れたでしょう。今日はもう休んではどうかしら?」
「いえ姫様。僕……いや私は姫様を無事城まで送り届けるのが任務ですから」
男子の成長は早い。以前はまだ幼さを残していたアビスの顔は、もう、一人前の男の顔になりつつあった。
アリューネはそれを喜ばしいことだと思いつつも、どこか寂しさにも似た郷愁にかられる。
なぜなら彼女の見た目はどれだけ年月を経ようと十五、六歳の少女のままであるからだ。
そこに疑問を持つものはこの国には存在しない。
なぜならおよそ三百年も前からずっとこの国ではこの少女が姫であり続けているのだから。
「姫様……僕、いえ私はここで……」
無事アリューネを城の入口まで送り届けるとアビスは城門の詰め所へと戻る。
それがいつもの日課であった。アリューネが城を出る時は必ずアビスが付き添い、彼女が城にいる時は城門や城内を一日中監視するのが彼の役目であるからだ。
なので必然とアリューネとアビスはお互いに会う機会を持っている。他の誰よりも近くにいるがゆえに、意識してしまう。
それが身分を超えた場違いな思いだと知りつつも、アビスはアリューネのことを一人の女性として慕っていた。
アリューネもまたそんなアビスの思いに気づかぬほど鈍感ではなかった。お互いがお互いを無意識に思い合い、けれどそれ以上の関係を築くことはない。
そんな穏やかな時間がしばらく流れた頃だった。
「姫様。近々おそらく大きな戦争がございます。つきましては我が軍の増強を図りたいかと……」
元老院ガイザルの一言で状況が一変する。
これまで淫スパニア公国は他国との大きな戦争を避けてきた。
避けてきたというのは正確ではない。他国が侵略してこないようにアリューネが間者を操っていたのだ。
いわく、その国の姫とひとたび交じあえばこの世のものと思えぬ快楽に溺れ死ぬだろう。
古くからの言い伝えどおり、アリューネと交わったものは自らの意思を破壊され、アリューネの傀儡と成り果てる。
傀儡と成り下がった各国の高官たちは、淫スパニア公国を攻撃しないよう自国に戻り進言するのである。
それが叶わない場合は傀儡を自死させてでも、この国を攻撃させないように画策する。
そんな人智も及ばぬ力をアリューネが持つ理由――
「ガイザル……本当に。この国は他国と戦わなくてはいけないのですか?」
「はい。このままではいくら姫様の力といえど、戦いを避けることはできないでしょう」
「なにか他に方法はないものでしょうか?」
「もちろん。あるにはあるのですが、姫様は本当にそれでよろしいのですかな?」
「…………」
ガイザルの言おうとしていることはわかる。
これまでどおりアリューネが他国の間者を受け入れその身を持って傀儡とし戦争を避ける。
およそ三百年もの間、同じようにしてこの国を守ってきた彼女だからこそわかる。
それ以外にこの国を守る方法がないということも。
しかし、この身がどれほど穢れようと心までは穢されたくはなかった。
アビスという少年に出会うまでは、こんな思い一度たりとも思い浮かべることはなかった。
アリューネの表情に曇りが見えた。
「今日はお疲れでしょう。姫様、また明日お伺いします。その時までにご決断を。よい返事を待っております」
ガイザルはそれだけ言い残すと部屋をあとにした。
アリューネの脳裏に浮かんだのはアビスの笑顔。あの笑顔を守るためなら自分はなんでもできると思っていた。
しかし、逆にそのことがアリューネのこれまでの行いを省みさせる。
ここまで穢れきった体で純粋な思いを抱くことそのものが罪であるかのように、アリューネの心を締め付ける。
もうアビス以外の男と交わりたくないと本心からそう思ってしまっている自分がいる。
アリューネはひとつの決心をした。
アビスに真実を告げる決心を。
太古から生き続ける呪われた血から生み出された碧眼のヴァンパイア――アリューネ
その真実を。
第二章
城内は慌ただしかった。
プロイセン軍が攻めてくるかもしれないという情報がどこからか漏れ出し、それを聞いた兵士たちがまことしやかに騒ぎはじめたからである。
当然姫直属の護衛兵であるアビスのもとにもその噂は流れてきた。
もしかしたら近いうちに大きな戦争が始まるかもしれない。誰しもがそう予感せざるを得なかった。
「アビス。アビスはいますか?」
アリューネ姫がお供の侍女を連れて城門までやってきた。
アビスはすぐにここにおりますと声を張り上げる。
それを見たアリューネは小さく微笑むと、アビスと少しの兵を連れて城門を出た。
「姫様、あまり外を出歩かれるのは……」
噂とはいえもしかしたら敵国が攻めてくるかもしれないという危機感の中、アリューネ姫を城の外に出すのは早計ではないかと危惧するアビスにアリューネは優しく囁きかける。
「大丈夫ですよ。この国の民は何があろうとわたしがお守りします。ですからアビス、今はただ民の平穏のため、こうしてわたし自ら町を歩くことでみんなを安心させてあげたいのです。それをお止めになるほどあなたも頑固ではありませんでしょう?」
そこまで言われてしまってはアビスに返す言葉もない。
自らの立場をより深く理解し、なお民のためにその身を捧げるアリューネ姫こそ自分がお仕えするにこれ以上の誉れは存在しない。
自分はただ何があろうと民たちの希望であるアリューネ姫をお守りするだけである。
アビスはそう心に誓いを立てた。
「ここでしばらく休みましょう」
町のはずれにある小さな湖畔の隅でアリューネ一行はしばしの休憩をとることにした。
町から外れているので喧騒も少なく、目の前の湖には鳥や他の小動物たちが水を飲みに集まってきている。
アリューネが自分の足で湖畔へ近づこうとしているのを察したアビスは、何かあると危険ですからとアリューネに付き添い湖のすぐそばにまでやってきた。
「アビス。あなたは本当にたくましくなりましたね」
「姫様のおかげです。あの時死にかけた私を助けてくださったのは姫様です。姫様に救われたこの命、姫様のために尽くしてなんの不満がありましょうか。これまでも。これからも私は姫様をお守りするためこの命果てるまでつきそう次第であります」
「…………」
アビスの真剣な思いを聞いたアリューネの心に小さくうずく痛み。
こんなに純真な少年の心を自分は弄んでいるのかもしれない。
かつて自らの呪われた血による暴走で多くのいたいけな命を奪ってしまった。
その中の生き残りの一人がこのアビスである。
アビス自身はドラゴンに襲われ今にも死にそうであったところをアリューネ姫に救われたと勘違いしているが、事実はそうではない。
ヴァイパイアの呪われた血による悲劇に巻き込まれた少年の運命が、今またアリューネの意思によって大きく動かされようとしていた。
「アビス。あなたはこの国のことをどう思いますか?」
突然真剣な眼差しでアリューネがアビスを見つめて問いかける。
アビスは少し逡巡するように考え込んだあとこう答えた。
「とてもいい国です。姫様のこの国への思い。そして民たちを案ずるその心が、この国の宝であると思うほどに。姫様がいなければ私も、この国の者たちもこれまでこうして無事生き抜いてくることはなかったでしょう。だから私はこの先なにがあろうと姫様と、そして姫様が愛したこの国を守りたいと思います。それが僕の……いえ私の本望です」
わかっていた。アリューネはアビスがそう答えることはわかっていた。
けれど、どこか本心では自分をこの国ではない別の場所へ連れて行ってくれるのではないか。二人でこの国を捨てて誰も知らない場所で一生愛を確かめ合いたい。そう願っている自分に気づいた時には溢れ出る涙を抑えることができなかった。
アビスは急に泣き出したアリューネを見て慌ててお付きの侍女を呼ぶ。
アリューネは慌てるアビスに、これは感動の涙。この国を思うアビスの心に感銘を受けて溢れた涙だと必死に取り繕った。
侍女もまたそれを察したのか、アビスにこれは名誉なことであるからこのことは自らの胸の内だけに留めておきなさいとアビスに忠告する。
アビスはそれを素直に受け入れた。
アリューネはもうアビス以外の誰とも体を交じあわせたくないとそう心に誓った。
第三章
アリューネはもう使えない。
そう確信したのは、今日いつもの公務より戻ったアリューネを見た時からだ。
他の者の目はごまかせても、これまでもっとも付き合いの長いガイザルの目を誤魔化すことは不可能であった。
これまでアリューネの呪われた血のおかげで平和を保ってきたこの国に終わりが近づこうとしているのは明らかであった。
アリューネがもう他国の者と交わりたくないと決意してしまえば、ただの人間であるガイザルに勝ち目はない。
それはガイザル自身にもよくわかっていることだった。あんな化物。人間がどれだけ束になろうと敵う相手ではない。
これまでアリューネを利用してきたのはこの国にいれば命の危険も金も女も不自由しないからである。他国に占領されればこんな小さな国あっという間に属領と化してしまう。
それだけは避けねばならなかった。ここでアリューネにこの国を出ていかれたらガイザルとて、もはや打つ手なし。
なんとしてでもアリューネをこの国に縛り付けておく必要がある。
ガイザルはそのために自ら戦争を引き起こそうとしていた。
「姫様、よろしいですかな?」
皆が寝静まった頃、ガイザルがアリューネの寝室にやってきた。
「昨夜のことですね。お入りなさい」
アリューネは決心を固めたというような表情でガイザルを迎え入れる。
「それでは姫様。こちらから打って出るということでよろしいですかな?」
小国が大国に勝てるとしたら奇襲以外に存在しない。向こうから攻められる前にこちらから攻めて大国を討つ。
幸いこの国の兵士は他国の兵士数百に匹敵すると言われるほどツワモノ揃いである。
それはあのアビスにおいても例外ではない。
なぜならこれこそがこの呪われた血を受け継ぐ国の特性だからだ。
かつてアリューネ以外にも存在したヴァンパイアの血を受け継ぐ子孫が作った国がこの淫スパニア公国だからである。
今はその血も薄れ、もはやただの人間と区別はつかないが、この国に生まれるものは皆幼き頃より何かしらの才に恵まれていることが多い。
それはガイザルとて同じだった。ガイザルはこの国をまとめる力。おもに政治力に長けていたため、この国の中枢にまで上り詰め、やがてアリューネ姫の秘密を知り、この国を裏から操るまでになった。
「この戦いに意味はあるのでしょうか?」
思わず弱音を漏らすアリューネにガイザルが悪魔の囁きをはじめる。
「ご心配なさるな姫様。あのアビスを使いましょう。姫様直属の護衛兵アビス。最近兵の中でももっぱら剣技が素晴らしいとの評判もあるアビスを使えば、この戦たちまちに終わりを迎えるでしょう」
「そ、そんな!」
思わず声を上げるアリューネ。
ガイザルは思った以上の反応を得て、さらに続ける。
「姫様も誉れでしょう。側仕えのアビスが活躍して帰ってくるとなれば国を上げてアビスの活躍を讃えましょうぞ。そうなれば彼の地位も安泰。これまでどおり姫様の護衛としてその力を存分にふるえることかと存じますが、いかがでしょうか?」
「そ、それは……」
ガイザルのいうとおりであった。
アビスはかつてアリューネの暴走を鎮めるために生贄としてガイザルが用意した駒のひとつであった。
アリューネの暴走が鎮まったあと、その生贄の一人が生き残っていたことはガイザルにもすぐにわかっていた。
だがアリューネを生かさず殺さず利用するには多少の褒美も必要であると考え、これまでアビスを野放しにしてきたのだ。
それがまさかこんな形でアリューネを使えなくするとはさすがのガイザルにも思い浮かばなかったが、それはそれで利用価値があると判断した。
アビスを戦争に向かわせることでアリューネを再びこの国に縛り付けることができる。
ガイザルはそう考えたのである。
「では姫様から直接お話ください。アビスもきっと姫様からの願いであれば奮闘することでしょう」
そう言ってガイザルはアリューネの返事も聞かずに出ていってしまう。
アリューネはしばし悩んだ後、侍女であるヴィヴィアンを呼びつけた。
「あなたはどう思いますか?」
「すべてはおひい様のされたいように」
何度聞いてもそれしか答えないヴィヴィアン。
アリューネの心は激しく揺れ動いていた。アビスを戦争に行かせたくないという思い。アビスを行かせてこの国の英雄にしてあげたいという思い。アビスを戦争に行かせて死なせたくないという思い。アビスが戦争を終わらせてくれるかもしれないという思い。様々な思いが胸中を渦巻いた。
けれど、その思いはすべてアビスに向けられている。この国よりもアビス個人への思いが爆発しそうであった。
このままではまた暴走してしまいかねない。そう思った時、アビスが目の前に立っていた。
「姫様……ご気分が優れないとお聞きし駆けつけましたが……」
その後ろにはヴィヴィアンが立っていた。
ヴィヴィアンはアリューネの瞳を見つめて一瞥するとそのまま姿を消した。
あとはアリューネ自身が決めることであるとばかりに。
「そうですか。やはりあなたは来てくれたのですね」
「姫様が私を必要としてくださるのであれば、私はどこへでも駆けつけるつもりです」
「本当にあなたは、わたしの心をいつも癒やしてくれる」
そうして、アリューネはゆっくりとアビスの首に手を回した。
驚いたアビスは後退りしようとする。しかし思いの外アリューネの力が強く、振りほどくことができない。
あっという間に二人はベッドの上に倒れ込んでいた。
アリューネの胸がアビスの胸にあたる。
二人の鼓動が重なるようにして合図を打ち始めた。
そしてゆっくりとお互いに唇を重ねる。
「姫様……僕……」
「いいんですよ。今だけは。今だけはわたしのアビスでいて」
「んっ……じゅる……ちゅぱ」
お互いの舌をねぶり合うように這わせる。糸をひくように唇からよだれがこぼれ落ちた。
はたから見ればまだ年端もいかぬ少年と少女のまぐわい。熱に浮かされてただ乱暴にお互いの体を求め合う。
先に我慢できなくなったのはアビスのほうであった。
重い甲冑を脱ぎ捨てると生まれたままの姿となり、アリューネの前に立つ。
アリューネはそれを誇らしそうに見つめ、そこに立ったままでいるようアビスに指示する。
アビスは彼女に言われるまま、そこに棒立ちする。
アリューネがアビスの前にひざまつくと、アビスの大きく屹立したペニスが空を見上げた。
恥ずかしそうに自分の股間を隠そうとするアビスの両手を振りほどき、アリューネが優しくペニスに手を触れる。
「あっ……姫様……」
「アリューネ」
「え……?」
「今だけはアリューネと呼んで」
「はい。いえ……うん。アリューネ」
アリューネがゆっくりと上下に手を動かす。屹立したアビスのペニスの皮がめくれ、亀頭が姿をみせた。
アリューネはその亀頭に優しく手のひらを乗せる。ぴくんとアビスの腰が浮き上がるのがわかった。
アリューネはそのまま手のひらをゆっくり回転させて、アビスの亀頭の先っぽに緩やかな刺激を与え続ける。
「あ、アリューネ……それ、きもちい……いい……だめ」
良いのか悪いのか。アビスはますます腰を浮かせて左右にふりはじめた。
もう立ってはいられないと腰をその場におろし、尻餅をつくと、両膝の間からアリューネの顔がひょっこりと現れた。
「アリューネ。なにを……」
一体自分はなにをされているのか。これまで自分のペニスを弄ったことはおろか、誰かに触れられたこともないアビスにとってこの刺激は耐えられるものではなかった。
腰のあたりがムズムズして、今にも何かが爆発しそうな感じがする。
それにペニスが痛いぐらい勃起して、ちぎれ飛びそうなほど天高く伸び上がっているのを感じる。
「なにか。なにか出そうだよアリューネ」
「いいんですよ。わたしにすべてを委ねて。あなたはただその快楽に身を任せていなさい」
アリューネのほうが幼い見た目をしているのに、なぜかリードを許してしまうアビス。
それほどまでにでアリューネは手慣れていた。これまでの経験が今アビスのためだけに活かされている。不本意ではあるが、アビスが喜んでいるのを感じるとアリューネはまだまだイタズラしたくなってしまう。
今度は手ではなく、口でアビスのペニスを気持ちよくしてあげたい。
そう思ったアリューネは自然とアビスのペニスに舌を這わせていた。
突然の衝撃にアビスが悲鳴をあげる。
「ひゃっ! ありゅ……ね……いまの、なに」
目をちかちかさせながらアビスが問う。
アリューネはそれに答えず再びペニスに舌を這わせると、上下に舐め回し始めた。
まるで触手のようにうねうねとまとわりつく舌にアビスのペニスが泣き叫ぶ。もう我慢出来ないと腹の底から何かがこみ上げるのを感じた。
「だ、だめ。なんか……でりゅ……アリューネ! 出ちゃう!」
そう叫ぶと同時に、アビスのペニスから白い液体が火花のように飛び散った。
床に散乱する白い液体。アリューネの髪や顔にも大きくこぼれ落ちている。
自分の顔についた白濁液をアリューネは丁寧に拭き取り、自らの口へと運んでいた。
「アリューネ、汚いよ……」
アビスは何が起きたのかわからないというような顔でゆっくりと起き上がると、自らのペニスが吐き出した白い液体を口にいれるアリューネを止めようとした。
しかし、アリューネはそれを振り払うように床に落ちた液体まで舐め始める。
まるで何かに取り憑かれたかのように必死に液体をかき集めていた。
「アリューネ!」
もういいからとアリューネの体を抱きとめるアビス。
「はっ! わたしは一体なにを……」
一瞬ではあるが意識が飛んでいたことを確認するアリューネ。
しばらくぶりの精液に当てられたのか、それともアビスの精液だったからかはわからないが、呪われたヴァンパイアの血がそうさせるように精液を貪っていた。
このままアビスに止められていなかったらどうなっていたかわからない。
不安で体を震わせていると、アビスが優しくアリューネの体を抱きしめてくれた。
「アリューネ……僕は絶対にあなたの前からいなくなったりしないから、だからアリューネも僕を見て」
「アビス……」
アビスはアリューネをゆっくりと立たせるとそのままベッドに優しく押し倒した。
「今度は僕の番だね」
知識があったわけではない。そうすることが自然だと思っていたのか、アビスはアリューネの服を優しく脱がせると生まれたままの姿の彼女をみた。
小さくても主張することをやめないその胸の膨らみに、自分にないものがそこにあるという確かな実感とともに優しく乳房に触れる。
「あん……っ」
アリューネが頬を赤らめ喜んでいるのがわかった。
今度は自分がアリューネを気持ちよくさせる番だと、アリューネがしてくれたように優しく舌を乳房に這わせはじめた。
「あ、それ……すごく……いい……アビス……もっとつよくしてもいいのですよ」
アリューネの指示に従うように最初は優しく、徐々に力を込めるように吸ったり、舐めたり、乳房周辺に指を這わせてみたりといろいろ試していく。
「はぁ……あぁ……ん。はぁ……きもち……いいですよアビス」
アビスの優しさが全身に伝わってくる。アリューネのことを思うアビスの優しさが舌を通して指を通して伝わってくるのを感じる。
アリューネは今までに感じたことのない幸福感を味わっていた。
「アビス……すき……アビス……」
声にならない声をあげる。それは本心だった。
これまで誰と体を重ねてもこんな気持ちにはならなかった。
今もしかしたら自分ははじめて本物の交接を味わっているのかもしれない。
そう思ったら急激に恥ずかしくなってきた。
「アビス……おねがい。みないで」
「どうして。アリューネの体もっと見たい」
「だめ……汚いから……」
「汚くなんてないよ。アリューネに汚いところなんてない。僕はアリューネのすべてがみたい」
「アビス……」
アビスの舌が全身を這いずり回る。
アリューネがそうしてくれたようにアビスもまたアリューネの下半身に到達した。
そこにはなにもなかった。自分にはあるペニスがない。頭ではわかっていたつもりだったが、いざ目の前にすると頭が真っ白になってしまう。
何もないかわりに、小さな割れ目がぽつんと佇んでいた。
そこにそっと指を這わせると、アリューネの腰が大きく動いた。
「はっ! あぁ……!」
痛かったのかなとアリューネに確認してみるが、そうではなかったようだ。
むしろ逆で気持ちよかったのだという。アビスは安心してまたゆっくりその割れ目に指を這わせはじめた。
「ん……そこ……もっと上……下へ……そう。ゆっくり」
アリューネの言われたとおりに指を上下させる。
するとなにかの突起物が指の腹に触れたような気がして、もう一度確認のためその突起物を探し当てようと指を動かす。
「あっ! だめ! そこはっ……!」
アリューネの割れ目から噴水のように液体が飛び出した。
さきほどとは真逆に、今度はアビスの顔がずぶ濡れになる。
アビスは一体なにが起こったのか理解できていない。
アリューネは恥ずかしそうに股をもじもじとさせると、アビスにこう言った。
「だめって言ったのに……」
アビスの股間に再び熱き思いが戻ってきた。
その顔とその声。今まで見たこともないような表情を見せるアリューネにアビスの男としての本能が語りかける。
今こそ進軍せよと。
「アリューネ。もう我慢出来ない」
「きゃっ!」
アリューネの性器に顔を押し付けるアビス。
それをみて驚くアリューネ。アビスの頭に咄嗟に手を置く。
アビスはそれを許可の合図と察したのか、アリューネの割れ目に今度は自分の舌を這わせはじめた。
アリューネの体が跳ねるように振動する。頭を手で抑えられているので逃げることは叶わない。
さらに強く顔を押し込まれるようにアリューネの性器が目の前に迫ってきた。
先程の液体のおかげでしっとりと濡れそぼっているそこに舌を入れ込む。
また一段とアリューネの体がひくひくした。
「アビス……どこでそんなこと……」
今回の交接がはじめてのアビスに疑問を抱くのも仕方がない。
まるで最初から知っていたかのようにアビスはアリューネの弱いところを攻め立てる。
それはアビスが自分にしてくれたことをただアリューネに返してるだけの単純なことであったが、アリューネにとってアビスのこの猛攻は予想だにしていないものだった。
さきほどイッたばかりだというのに、体はもうイキたがっている。
アビスの舌に合わせてびくびくと動く自らの恥部に恥じらいながらも次の波に備えて両手に力を込めた。
「だめ……アビス! イッちゃう!」
再びアリューネの体が跳ね上がった。
アビスは頭を強く押さえつけられていたため、アリューネの動きに合わせて頭を上下させる。
ベッドの上じゃなかったら床に顔を叩きつけられていたところだ。
アリューネが落ち着くまで、アビスは待った。
「アビス。ごめんなさい」
アリューネが申し訳無さそうに顔をこちらに向ける。
きっと頭を押さつけたことを謝っているのだろう。アビスはそんなことどうでもいいというかのように、アリューネの顔にそっと自分の顔を近づけて口づけをした。
アリューネもそれを許しの合図だと受け取ったのか、今度は二人で優しくベッドの上に寝転がる。
ここから先どうすればいいのか、アビスにはわからない。
けれどこの抑え込むことのできない激情ををどこかにぶつけて発散したくてたまらない。
そんな行き場のない感情が、アビスの腰を無意識に動かし、ペニスを必死にアリューネの腹やふとももに擦り付けた。
アリューネはアビスがなにをしたいのか理解している。
アリューネも準備が整っている。今なら本当に最高の交接ができるかもしれない。
アリューネはもう一度アビスに顔を向ける。
「アビス。お願いがあるの」
「なに?」
「わたしを愛して」
「うん」
「違うの。そうじゃないの」
「僕はアリューネのこと大好きだよ」
「そう。それは嬉しいのよ。でも、お願いよく聞いて」
「うん」
「あなたはこれからわたしと交わるわ。もしかしたらそのせいであなたは自分を保てなくなるかもしれない」
「どういうこと」
アリューネの言っていることがわからないアビス。
アリューネは優しくひとつひとつ丁寧に説明しはじめた。
自分がヴァンパイアであること。
かつてアビスの同胞たちを自分が殺してしまったこと。
これまでにも幾人もの人間を傀儡と化してこの国を守ってきたこと。
そしてこれから同じようにアビスを傀儡にしてしまうかもしれないということ。
自分ではどうすることもできない力でアビスを含めたこの国の民たちを傷つけてしまうこと。
これまでひた隠しにしてきたすべてをアビスにぶちまける。
涙を流さなかっただけ奇跡と言えるであろう。それだけアビスへの信頼が感情を通り越したのだ。
アビスはただ黙ってすべてを聞いた。
「アビス……本当にごめんなさい」
「…………」
アビスはすべて理解したのかしていないのかわからない顔で、一言だけこう言った。
「僕はアリューネが好きだよ」
もう言葉はいらなかった。
アビスの屹立したペニスをアリューネは自らの蕾へと受け入れる。
「あっ、ん、あ」
今にも壊れそうな小さな割れ目にアビスの大きく育ったペニスがゆっくりと吸い込まれていった。
少し狭い入口をくぐり抜けた途端にまとわりつくような感覚がペニスを襲う。
アビスはあまりの気持ちよさに一瞬で果てそうになるがそれを必死で我慢した。
「はっ、はぁっ、ああっ、んはぁっ」
アリューネの中に動く虫でもいるかのように、ペニスの周りをうねうねとしたものが這いずり回る。
それは先程感じた舌のうねりとも違い、まるで縦横無尽に動き回る突起物。
無限に感じるほどのその突起の群れはペニスから何かを絞り尽くさぬばかりであった。
「ああっ、あぐぅっ、ああっ」
その無限突起地獄をくぐり抜けると今度はどんどん細くなっていく膣道。
これ以上のペニスの侵入を拒むかのように道はどんどん狭くなっていく。
無限の突起と強烈な締付けが同時にアビスのペニスを襲った。
「びくっ、びくっ、びくっ」
もはや人間に耐えられる感度の限界を超えている。
アビスは声を上げてアリューネの中に自らの子種を流し込んだ。
「あっ、あっ、あっ、イクぅううううううううう!」
アリューネが声をあげる。
それと同時にアビスもまた声を荒げた。
二人の声が重なり合うようにしてハーモニーを奏でる。
今この瞬間、アビスとアリューネは一つになったのを感じた。
身も心もすべてが一つになって溶け合っている。
これほどの幸福感に満たされたことはいまだかつてなかった。
呪われた血の暴走はどうやら起きなかったようだ。
「アビス……本当に気持ちよかったわ。ありがとう」
「アリューネ……僕も気持ちよかった」
二人は息を切らしながらベッドに仰向けになった。
汗や汁やらで体中がべとべとだった。
それでも二人は穏やかな気持ちだった。
世界がまるで二人を祝福しているかのようにさえ思えた。
このままずっと二人でいられたら――
「おひい様……そろそろ……」
いつの間に現れたのか、ベッドのそばに侍女のヴィヴィアンが立っていた。
「ふぇえ!」
「ふぁっ!」
アリューネもアビスも驚いてシーツで身を隠す。
ヴィヴィアンはまるで何事もなかったかのようにアリューネの体をタオルでふきはじめた。
アビスには一瞥もくれずに、アリューネだけを見ていた。
「ありがとう。ヴィヴィアン。もういいわ」
アリューネは着替え終わると、甲冑姿に戻ったアビスが寝室の扉付近で待っていた。
「アビス。あなたにお願いがあるの」
「はい。なんでしょうか姫様」
先程の行われた交接がまるでなかったかのように振る舞う二人。
それが本来の姿であるとばかりに、夢は夢のまま眠らせておくのが幸せなのかもしれないと心の奥底に思いを閉じ込める二人。
「もうすぐプロイセン軍が攻めてくるようです。あなたにはガイザルが派遣する先行隊に入ってもらいます」
「その任務。謹んでお受けいたします!」
本当は入ってほしくない。
でもアビスのため仕方ないとアリューネは自分に言い聞かせる。
「心配しないでください姫様。自分は必ず帰ってきます。姫様がどんな人であれ私には関係ありません。これまでどのようなことがあったとしても自分は姫様を嫌いになることは一生ありません。なぜなら僕は、今目の前にいるアリューネ様が大好きだからです」
アリューネの頬を一筋のしずくが流れ落ちた。
もう二度とアリューネを泣かせたくないと思っていたアビスはそれでもなお続ける。
「この国のため。姫様のために。私はこの命を賭してお守りすることを誓います。必ずや敵国を倒し、無事帰還した暁にはアリューネ様と正式に婚礼の儀を承りたく存じます」
あなた一体何をとヴィヴィアンがアビスの口を塞ぎに入るが、アリューネがそれを静止した。
「これまで、わたしにそんなことを申し上げた殿方は一人もいませんでした。そうですね。あなたが本当に無事わたしのもとに帰還したのならばその申し出を受けることに致しましょう。ガイザルにも口を挟ませません。あなたはこの国の英雄となって帰ってくるのですから」
二人がキラキラとした瞳で無言で見つめ合っているのをみたヴィヴィアンが咳払いをひとついれる。
「では姫様。私はこれで」
「あっ……」
アビスが出ていってしまう。この部屋からアビスが出ていってしまえばもう二度と会えなくなってしまうそんな気がした。
「姫様。お約束ください。姫様が大好きなこの国を決して見捨てないでください。そして姫様を愛する私が戻ってくるのを信じて待っていてください。この国は姫様にとってなくてはならないものです。だから私は姫様のためにこの国を守ることを約束いたします」
そう笑顔で告げるとアビスは寝室を出ていった。
月明かりだけが部屋の中に残る。
ヴィヴィアンもいつの間にか寝室から消えていた。
アリューネは一人天に思いを馳せる。
両膝をつき、両手を組み合わせて祈りを捧げる。
神に祈る碧眼のヴァンパイア。
それはまるでおとぎ話のように、月明かりがなくなるまでただ静かにアリューネは祈り続けた。
神様どうかアビスをお守りください。
この国にもっとも必要なのは彼です。
これはそんな彼女の悲劇のプロローグ――
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